10年前より、5年前。
5年前よりも、今年。
時間が経つほど、職場において「これはパワハラじゃないか?」という意識が加害者側・被害者側ともに根付いているように思います。
裏付けるデータとして、厚生労働省の毎年発行する資料のなかの「いじめ・嫌がらせ(≒パワハラ)の相談件数」が、年々増えて続けていることがあげられます。
他の労働に関する相談件数は下がっているにもかかわらず、いじめ・嫌がらせだけ6年連続トップを独走しています。以下のグラフをご覧ください。
グラフ引用元:厚生労働省 平成29年度個別労働紛争解決制度の施行状況
年度 | いじめ・嫌がらせ相談件数 |
---|---|
平成19年 | 28335件 |
平成21年 | 35759件 |
平成23年 | 45939件 |
平成25年 | 59197件 |
平成27年 | 66566件 |
平成29年 | 72067件 |
相談件数が右肩上がりなのは心配ですが、裏を返せばそれだけ働く方々のいじめ・パワハラに対する意識が高まってきており、いい機運とも言えます。
改めてパワハラの基本事項を押さえておきましょう。
パワハラの定義
厚生労働省はパワハラを以下のように定義しています。
1.同じ職場で働く者に対して
2.職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に
3.業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為
厚生労働省:職場のパワーハラスメントについて
・職場内の優位性
優位性とは「上司と部下」の関係にとどまらず
・「パソコンに詳しい部下が、疎い上司をばかにする」
・「正社員が派遣社員を見下す」
といったケースも当てはまります。
・業務の適正な範囲を超えて
たとえば「知らずに危険を冒した部下を叱る」こと自体は適正な範囲と考えられます。いっぽうで「相変わらず役立たずだな」などと、そこまで言う必要のないことを、ことさら持ち出すとパワハラの可能性が一層高まります。
法律で明確に「パワハラ」を挙げている条文はありません。ではどのような基準でパワハラを認定するのかは次をご覧ください。
パワハラの判断基準
「これはパワハラ、これはパワハラでない」とはっきり示された基準はなく、一概に区別することは難しいものです。
ただこれまでの判例から「違法かどうか」はだんだんと明確化されており、参考になるものとして「不当な配置転換」に関した裁判があります。
1.その命令等が、業務上の必要性に基づいているか
2.業務上の必要性があるように見える場合でも、その命令等が社会的に見て不当な動機・目的に基づいていないか(左遷、嫌がらせ目的でないか)
3.その命令等が労働者に対して通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を与えていないか
あかるい職場応援団:【第10回】「配転命令とパワーハラスメント」 ― エフピコ事件
その他にも「上司の指導なども、相手によって受け取られ方(限度)は違うのではないか」という指摘については
・「平均的な心理的耐性をもった人」を基準とすべき
・しかし例外として「被害者が特別ストレスに弱いと知っているか、知ることができたにも関わらず過度なストレスを与えること」も違法と判断できる
という判例があります。
厚生労働省:パワー・ハラスメントと使用者責任
あかるい職場応援団:【第13回】「違法性の判断基準」 ― 長崎・海上自衛隊員自殺事件
パワハラの6類型
「代表的なパワハラ6類型」として以下の6項目を挙げられます。ただし、あくまで代表的なものを分類したに過ぎず、「ここに該当しないからパワハラでない」ということにはなりませんので注意が必要です。
1.身体的な攻撃(叩く、蹴る等)
2.精神的な攻撃(みんながいる場やメールでの叱責等)
3.人間関係からの切り離し(ひとりだけ別室、宴会に呼ばない等)
4.過大な要求(不可能なノルマ、作業を押し付ける等)
5.過少な要求(営業なのに机拭き、草むしりしかさせない等)
6.個の侵害(プライベートに立ち入る質問等)
厚生労働省管轄ページ「あかるい職場応援団」ではこれらを図解入りで説明しています。
引用元:あかるい職場応援団「パワハラの6類型」
これはパワハラ?1(すべてパワハラになり得ます)
・異動でやってきた社員が場違いなことしか言わず、上司は”これでは戦力にならない”と判断して書類整理ばかりさせた
・それを察したほかの社員が無視をしだす
これらはパワハラになり得ます。
・書類整理ばかりさせる:「過小な要求」
・社員が無視しだす:「人間関係からの切り離し」
・「しっかりしろよ、そんなこと続けてたら辞めてもらうぞ」「新人のほうがまだマシだな」と肩を叩く、キツい言葉を投げかける、厳しい指導を執拗に、継続的に罵倒する。
人格否定や、侮辱ともとれる発言を長期間・継続的に行ったため、「指導の範囲を著しく超えるもの」と判断できます。
「顔色が悪い・元気がない」と人格を否定する発言ばかりを続けていた結果、うつ病にかかった(安全配慮義務違反)
参考:あかるい職場応援団「動画で学ぶパワハラ」
これはパワハラ?2(パワハラでないと言えます)
・異動でやってきた社員が場違いなことしか言わず、上司は「その考えが誤りである理由」を説教した上で「いま取り組むべき仕事」を指示した
・それを察したほかの社員が「仕事の進め方」を教えた
これらは適正な業務の範囲で、パワハラではないと考えられます。
・「しっかりしろよ、そんなこと続けてたら辞めてもらうぞ」「時間あるか?いまから俺が教えてやる」と肩を叩く、キツい言葉を使うなどしたが、部下がその叱責をばねに仕事を頑張った。
この場合パワハラにならないと考えられます。
1.部下の成長を願い指導している
2.部下に好意を持って接する(成功をいっしょに喜ぶ・励ますなど好意を持って接していた様子がうかがえる)
3.部下も心をひらいている様子をうかがえる
部下との日頃のコミュニケーションがよくとれていて信頼関係が築けているなら、結果として荒っぽい言葉や肩を叩くという行為も受け入れられ、パワハラとなりません。
参考:あかるい職場応援団「動画で学ぶパワハラ」
支援会はパワハラを許しません。いざパワハラに見舞われたときの相談先などについては、関連記事をご覧ください。