うちの会社の就業規則を見ると90日前と書いてあります。わたしとしては1ヶ月後には辞めたいのですが、従うしかないのでしょうか?
90日後でないと退職できないというのは、一般的に見て「すこし長すぎる」気がしますね。結論から言って、就業規則や会社の規則に従う必要はありません。
法律上は2週間~最大45日程度だが…
会社を退職する場合、民法では「原則として2週間前、賃金等の計算上の規定がある場合にはその計算を行う前半までに申し出る」と規定されています。
民法第627条
・当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。
・期間によって報酬を定めた場合には、解約の申入れは、次期以後についてすることができる。ただし、その解約の申入れは、当期の前半にしなければならない。
・六箇月以上の期間によって報酬を定めた場合には、前項の解約の申入れは、三カ月前にしなければならない。
小難しいことを言っていますが、ざっくり説明すると「辞めるなら、最低2週間前。ただし最大45日間は退職できないケースもある」ということです。
最大45日間退職できないケースというのは「給与が毎月月末締めの会社であった場合、月の後半に退職の意思を申し出た際は翌月末日に退職ができる」といった類のものです。
ややこしいですね。詳しくはいろんな外部サイトでも説明されていますが、支援会では30日前の退職であれば社会通念上、およそ問題ないというのが見解です。
外部サイト:【民法改正】準備は大丈夫?月給制正社員の退職ルールが変更されます
退職30日前までなら社会通念上、妥当である
一般的な企業では30日前と規定しているところがもっとも多いのですが、「なぜ30日前か」という根拠のひとつとして「会社側からの正当な理由があって社員を解雇する場合、30日前の予告もしくは30日分相当の賃金を払う」という法律と合わせていると考えられます。(労働基準法第20条)
あなたも「30日前の退職予告が常識だよね」という意識が、なんとなくあるのではないでしょうか?
30日を超える会社は「アウト」の可能性
会社によっては業務の手続きの都合や、あらかじめ引き継ぎ期間を考慮してか30日よりも長い期間を設定しているケースもあります。
特に専門職の多い職場や技術系の業務を行っている企業が90日前と就業規則に書くケースも稀ではありません。
外部サイト:弁護士ドットコム 就業規則にある90日前に退職の意思表示という記載は有効なのでしょうか?
ですが、30日を超えるものについては「辞職・退職の自由」に反するため無効だという考え方が一般的です。
辞職・退職の自由とは
民法ではっきりと「退職するのは自由」などと書かれているわけではありません。憲法によって「職業選択の自由」と「奴隷的拘束の禁止」が明記されていることが「辞職退職の自由」と言われています。
つまり、正当な理由もなく過度な引き止め、30日を超えて退職させない会社こそが「人権侵害、憲法違反、社員の不当な扱いをする企業」とみなされます。
労働者側からの解約(=辞職)は、職業選択の自由(憲法22条)や奴隷的拘束の禁止(憲法18条)という憲法上の人権が保障されていることの帰結として、修正を受けることなく原則として認められており、
(中略)
特段の必要性もないのに1か月を超えるような長期の予告期間を設ける規定は退職の自由を不当に拘束するものと評価されてその規定は無効となり、民法上の2週間を経過すれば労働契約は終了するものと考えられます。
外部サイト:弁護士法人名古屋法律事務所 個人の労働問題
では、どう会社に対抗したらよいか
法的な解釈では上記のとおり「90日ルールに従う必要なんてありません、わたしは30日後に辞めます」とゴリ押しすれば終わりです。
ですが現実に、就業規則が90日前となっていた場合、どうしたらいいでしょうか?「90日前と規則に書いてあるんだから従うのが常識だ」などと思考停止している相手に、法的解釈を理解してもらえるでしょうか?
企業によっては「契約不履行だ」「損害賠償する」「次の人を雇う費用をあなたに請求する」などと脅し文句を使ってくる場合もあるようですね。
対抗策1.堂々と退職届を出す
・「次の就職先が決まっておりますので、この日以上にはなりません」
・「福岡東労働基準監督署の○○さんに確認しましたら、30日後で問題ないとのことでしたのでこのまま提出します」
基本にして王道です。勇気を出して、伝えることははっきり伝えます。
まして「損害賠償」などの脅しまで使ってきた場合、会社側が不利なことは明らかです。会社が労基署に問い合わせようが顧問弁護士に助けを求めようが、会社は実力行使などできません。大恥をかくだけです。
関連記事:退職願と退職届、辞表の違い
対抗策2.公的機関に確認、相談する
「・・・ということがあったんです、これって僕がおかしいのでしょうか」
『対抗策1』でも軽く触れていますが、ハローワーク・労基署・労働相談窓口・法テラス・ユニオンなど公的なところから意見をもらうことです。まず間違いなく「その会社はおかしい」と判断をしてくれることでしょう。その上で自信を持って対応すればよいのです。
以下の窓口を参考にされてください。
・労働相談窓口
厚生労働省 総合労働相談コーナーのご案内
・弁護士会、法テラス
法テラス
・労働基準監督署
全国労働基準監督署の所在案内
・全国にあるユニオン(合同労働組合)
ジャパンユニオン
日本労働組合総連合会
全国労働組合総連合
全国労働組合協議会
※このほか各地方にもユニオンが多数存在
引き継ぎは怠らず、ただし責任を感じすぎなくていい
退職日がいつになろうと、後任への引き継ぎは時間の許することが望ましいと思います。
・自分が休むと回らない業務がある
・自分しか理解できない状態でデータが保存されている
といったことに思い当たる人は要注意です。
日頃から周囲の人に自分の仕事がわかるよう業務を進めていれば大きな問題はないはずですが、最低限「誰が見てもわかる状態」にデータを残しておくか、後任が決まっていればデータやファイルをすべて渡して、どういったものか説明をする必要があります。最終月は多少忙しくなるでしょう。
もちろん、あなたにすべて責任があるわけではありません。
・あなたが突然いなくなっても会社が回る仕組み
・「あなたしか知らない仕事」が極力無い仕組み
これを整備するのは会社の責任ですから、あなたが大きな責任を負うことではありません(だってそうでないと、あなたがとつぜん交通事故で意識不明になった途端、会社が立ち行かなくなるということですよね?そんな馬鹿な経営を、会社がしているはずありません)
あなたは「できることを、できる範囲で」で十分です。
さいごに。これらは一般的な「月給社員」の話です
これらの話は日本でもっとも多い「無期限雇用、月給制の社員」の話を引き合いに出しました。契約が異なれば適用される条文も変わります。
・年俸契約の場合は3ヶ月前に申し出ること
・3年契約の社員は1年以上勤めていた場合いつでも退職して構わない
などさまざまなルールがありますので、もしもあなたが「特殊な雇われ方」に当てはまるなら当会へご相談ください。状況をお伺いし、適切な窓口をご案内いたします。