あなたの会社はどうですか?
正確にはみなし労働時間制と言います。営業職など、会社側がどれくらい働いたかを把握しづらい職業について「決められた残業時間込みで働いたとみなす」制度です。
たとえばみなし残業が月30時間と定められていたとしましょう。
- その月10時間働いても30時間ぶんの給料が出る?
- その月50時間働いても30時間ぶんの給料しか出ない?
これは半分正解で半分誤りです。
実際の労働時間が少ないぶんには構いませんが、実際の労働時間が多いぶんには、会社はかならず残業代を支払う必要があります。本来、労働者にとって有利な扱いが受けられるのが「みなし労働時間制」ということですね。
みなし残業の理想
月30時間のみなし残業が定められていた場合
その月の残業時間が20時間だったとしたら、働いていない10時間ぶんもちゃんと毎月のみなし残業代に含まれている。いっぽう次の月は忙しく残業50時間になった場合、足が出た20時間ぶんの残業代が支給される。
このとおり、本来のみなし残業は労働者側にデメリットはありません。
※働かなかった時間を翌月に持ち越して充当するかどうかは、会社ごとの就業規則の定めによります
みなし残業の現実
月30時間のみなし残業が定められていた場合
人手不足などで常に忙しく、月の残業時間は30時間を超えてしまう。それなのに会社から30時間を超えたぶんの残業代が支給されることはなく、「みなし残業だから残業代は払っている」「残業代は給料に含まれている」などと言われる。
以上のように、「みなし労働時間制」を取り入れている企業は、労働者にとって残業代ができないように見せかけているところが多いのが現状です。
みなし残業をサービス残業に使われている現状に対抗するには
そもそもみなし残業時間をこえて長時間働くという状態は健全とはいえませんし、そこに本来払うべき残業代が出ないというのは明らかな違法行為です。現在の納得しづらい状況を打破するには、不利益な扱いを受けている本人が訴え出るしかありません。
業務改善を提案する
「全員の長時間労働が常態化しているので業務フローなどの見直しをしたい」と業務改善を提案してみるのもひとつの方法です。
しかし、ただでさえ残業で疲弊しているのに、みずから役を買って出るのはしんどいと思います。またこれが有効な手段かどうかは、賛同してくれる人がいるか、業務改善提案が通りやすい社風かなどの条件でも左右されます。
労働基準監督署などに通報する
自分自身の身分を明かし、ある程度事実の裏付けとなるメモや資料を提出して通報するという手段は有効です。労基署は窮状を訴えにきたひとを無下に追い返すことはありませんし、その後の結果報告までしてもらえます。
メモ:これを「申告」といい、労基署が会社にガサ入れに入ることを「臨検」といいます。
実名を明かさず、匿名で通報することも可能です。しかし、労基署は常に人手不足(厚生労働省の資料によると全国で4千人弱、いっぽう企業の数は約400万です)のため、優先順位は著しく落とされる可能性が高いでしょう。
会社に直訴する・未払い分の残業代を請求する
「本来、30時間を超えた分の残業代は頂かないといけませんので、請求します」
と請求書を会社に渡す。もっとも直接的な方法です。
しかし、言い出すにはたいへんな勇気と準備がいることでしょう。言ったところで揉めることも、会社にいづらくなることも目に見えています。なお法令上、「違法状態をただそう」という訴え出をする人に、不利益な扱いをしてはいけません。ですが現実的には会社からすれば「疎ましい人」と見られ、嫌がらせであったり、会社の居心地が悪くなる・よそよそしくなることは覚悟しなければならないでしょう。
本当に会社に請求するとすれば、周到な用意が必要です。みなし残業を超えたぶんを日々「どこで誰と会っていたか」などをメモや記録に残したり、終業後に家族や同僚にLINEやメールを毎日送るなどし、動かぬ証拠を積み上げましょう。
ただ、上記のように証拠を揃えて直接申し出るのであれば、実行に移す前にいちど労基署やユニオンに相談にいくべきでしょう。アドバイスをもらえることがあります。
ユニオン・・・一般労働組合ともいって、労働者の味方をしてくれる非営利の組合。全国に「全国一般ユニオン」「連合ユニオン」などさまざまなユニオンが存在する
メモ:わたしも福井ユニオンに相談に行きながら、残業代計算シートで時間外労働を算定して、基本給から時給を割り出して、請求書を作りました。仕事の合間にやるには、なかなか大変でした。
外回りと携帯電話
「外回り営業」など、上司が労働時間を把握しづらい社員の場合とくに「みなし残業(みなし労働時間制)」を採用しています。会社側はたいてい「外周りでの時間配分は任せているから当然」と主張をするでしょう。
しかし本当にそうでしょうか。そもそもみなし残業を適用する場合「労働時間を算定し難いとき」という条件があります。つまり会社側は営業マンが「いつ、どこで、何をやっているか把握ができない」場合のみ、みなし残業を適用してよいことになっています。
具体的には以下のような状況があると「労働時間を算定し難い」の条件に当てはまらず、「みなし残業を適用すること自体が無効」だとする判例もあります。
- 携帯電話、メールなどで随時上からの指示を受けながら外回りしている
- 職場で当日の業務の具体的な指示を受け、職場外で指示どおりに業務をおこない、その後、職場に戻る場合
携帯電話などで上司と連絡を取り合っているなら、「外回りの状況が把握できない」とまでは言えなそうです。いまどき携帯電話、メール、チャットアプリを使わない営業マンはいるのでしょうか。
少しずつではありますが、会社側の勝手な言い分を鵜呑みにしなくてよい世の中になってきています。
みなし残業を「違法」とした判例集もご覧ください。
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