みなし残業を「違法」とした判例集

みなし残業(みなし労働時間制)は本来、労働者側にデメリットのほとんど無い制度です。

しかし現実は、「みなし残業を取り入れれば、いくら働かせても残業代を支払わなくてよい」と違法な解釈をする会社が後を絶ちません。

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本来みなし残業とはこういう性質のものです。

事業場外で業務に従事した場合に労働時間を算定し難いときは所定労働時間労働したものとみなす旨を規定しているところ、本来使用者には労働時間の把握算定義務があるが、事業場の外で労働する場合にはその労働の特殊性から、すべての場合について、このような義務を認めることは困難を強いる結果になることから、みなし規定による労働時間の算定が規定されているものである。したがって、本条の規定の適用を受けるのは労働時間の算定が困難な場合に限られる。

これを分かりやすくまとめると

  • 会社側は労働時間を把握する義務があることを忘れてはならない
  • ただし外回りなどで労働時間の把握が難しいときは、みなし残業としてもよい
  • 「労働時間の把握が難しい」と認められないものは、みなし残業にしてはいけない

みなし残業(みなし労働時間制)を巡ってはさまざまな判例が出ていますが、その多くは「みなし残業とはならない(残業代を出さないことは違法である)」との見解が出ています。

具体的に見ていきましょう。

参考元:東京労働局・労働基準監督署「事業場外労働に関するみなし労働時間制」の適正な運用のために 公益社団法人全国労働基準関係団体連合会(全基連)

判例1.光和商事解雇無効確認等請求事件

営業社員は朝被告会社に出社して毎朝実施されている朝礼に出席し、その後外勤勤務に出、基本的に午後6時までに帰社して事務所内の掃除をして終業となるが、営業社員は、その内容はメモ書き程度の簡単なものとはいえ、その日の行動内容を記載した予定表を被告会社に提出し、外勤中に行動を報告したときには、被告会社においてその予定表の該当欄に線を引くなどしてこれを抹消しており、さらに会社所有の携帯電話を営業社員全員に持たせていたのであるから、被告会社が営業社員の労働時間を算定することが困難であるということはできず、営業社員の労働が労働基準法第38条の2第1項の事業場外労働のみなし労働時間制の適用を受けないことは明らかであるとして、みなし労働時間の適用を否定した事例。
光和商事解雇無効確認等請求事件(大阪地裁平成14.7.19)

分かりやすくまとめると

  • 社員は朝礼も終礼も出ている
  • タイムカードも押している
  • 携帯電話も持たせている
  • この状態を「労働時間の算定が困難」とは言えない
  • よって「みなし残業」も適用しない

判例2.サンマーク残業手当等請求事件

原告社員が担当した業務は、格別高度な裁量を必要とするものではなく、訪問先における訪問時刻と退出時刻を報告するという制度によって管理されており、個々の訪問先や注文者との打合せ等について
被告の具体的な指示はされないものの、原告社員が事業所外における営業活動中に、その多くを休憩時間に当てたり、自由に使えるような裁量はないというべきで、事業所を出てから帰るまでの時間は、就業規則上与えられた休憩時間以外は労働時間であったということができる。そうであれば、これらによれば、被告会社による具体的な営業活動についての指揮命令は基本的になかったものの、原告の労働自体については、被告の管理下にあったもので、労働時間の算定が困難ということはできないとして、みなし労働時間の適用を否定した事例。また、直行直帰の場合においても、所定労働時間以上を就労したものについては、その営業活動について、被告会社の管理下にあったことは、直行直帰以外の場合と同様であって、労働時間の算定が困難ということはできないと判断している。
サンマーク残業手当等請求事件(大阪地裁平成14.3.29)

分かりやすくまとめると

  • 社員は営業周りの予定を報告することになっている
  • 社員は外周りの時間を自由に使える裁量は持っていない
  • この状態を「労働時間の算定が困難」とは言えない
  • よって「みなし残業」も適用しない

判例3.大東建託時間外割増賃金請求事件

建築工事の請負・不動産売買・同仲介を業とする被告会社において、労働基準法第38条の2に基づく「事業場外労働に関する協定」が締結されていたが、テナント営業社員等の始業・終業時間は、タイムカードによって管理把握され、かつ、事業場外で労働時間中も、携帯電話を通じた事業場の連絡・指示により常時管理されていたのであるから、その事業場外労働は被告の指揮監督下にあったものと認めるのが相当であり、事業場外労働時間の算定が困難であったということはできないとして、「事業場外労働に関する協定」にかかわらず、事業場外労働時間の算定はタイムカードにより把握された実労働時間によるべきであるとして、みなし労働時間の適用を否定した事例。また、割増賃金の請求を認めた他、本件においては、被告会社が労働基準法第114条による付加金の支払命令を免れるべき特段の事情があると認められないとして、未払割増賃金と同額の付加金の支払も命じている。
大東建託時間外割増賃金請求事件(福井地裁平成13.9.10)

分かりやすくまとめると

  • 始業・終業時間はタイムカードで管理されていた
  • 外回りにおいても携帯電話で連絡・指示を受けていた
  • この状態を「労働時間の算定が困難」とは言えない
  • よって「みなし残業」も適用しない

判例4.千里山生活協同組合賃金等請求事件

被告生活協同組合は共同購入運営部門での業務が事業所外での配達業務であるから、就業規則の規定により、その間の労働は所定労働時間を勤務したとみなされる旨主張した。しかし、みなし制をとれるのは、事業場外労働のうち、労働時間を算定しがたい場合に限られるとし、共同購入部門での配達業務に従事する職員を含めて、その労働時間はタイムカードで管理をしているのであるから、労働時間を算定しがたい場合に当たらないことは明らかである。事業場外労働のみなし制が現実に労働時間を算定できるにもかかわらず、事業場外労働であるという理由だけで、所定労働時間しか労働しなかったこととみなされる制度ではないことはいうまでもないとして、みなし労働時間の適用を否定した事例。
千里山生活協同組合賃金等請求事件(大阪地裁平成11.5.31)

分かりやすくまとめると

  • 会社は「外回りの配達業務だからみなし労働にしている」と主張した
  • しかし現実にはタイムカードで出退勤を管理していた
  • この状態を「労働時間の算定が困難」とは言えない
  • よって「みなし残業」も適用しない

判例5.ほるぷ賃金等請求事件

書籍等の訪問販売会社の本社又は支店が年に数回、ホテル等で絵画の展覧会を開き、会場において会社のプロモーター社員らが絵画販売に従事したことにつき、この展示販売への参加を強制することはないが、その業務に従事する時間及び場所は限定されており、支店長等も会場に赴いている他、会場内の勤務は顧客への対応以外の時間も顧客の来訪に備えて待機しているもので休憩時間とは認められないこと等から、プロモーター社員が展示販売業務に従事しているか否かを把握して労働時間を算定することは本来容易にできるものであるとして、プロモーター社員の展示販売について事業場外労働のみなし制の適用を否定した事例。
ほるぷ賃金等請求事件

分かりやすくまとめると

  • 会社側は、「展覧会場での勤務は事業所外だからみなし労働にしている」と主張した
  • しかし現実には業務をおこなう場所や時間は決まっていた
  • 支店長なども会場に出向いていた
  • 「接客中以外は休憩時間にしてもよい」としていたが、現実には来客に備えての待機時間である
  • この状態を「労働時間の算定が困難」とは言えない
  • よって「みなし残業」も適用しない

 

判例6.阪急トラベルサポート残業代等請求事件

添乗業務は、旅行日程がその日時や目的地等を明らかにして定められることによって、業務の内容があらかじめ具体的に確定されており、添乗員が自ら決定できる事項の範囲及びその決定にかかる選択の幅は限られているとし、また、派遣先である旅行会社は、派遣添乗員との間で、あらかじめ定められた旅行日程に沿った旅程管理等の業務を行うべきことを具体的に指示した上で、予定された旅行日程に途中で相応の変更を要する事態が生じた場合にはその時点で個別の指示をするものとされ、旅行日程の終了後は内容の正確性を確認し得る添乗日報によって業務の遂行の状況等につき詳細な報告を受けるものとされているということから、業務の性質、内容やその遂行の態様、状況等、旅行会社と添乗員との間の業務に関する指示及び報告の方法、内容やその実施の態様、状況等に鑑みると、添乗業務については、これに従事する添乗員の勤務の状況を具体的に把握することが困難であったとは認め難く、労働基準法38条の2第1項にいう「労働時間を算定し難いとき」に当たるとはいえないとした事例。
阪急トラベルサポート残業代等請求事件(最高裁第二小法廷平成26.1.24)

分かりやすくまとめると

  • 添乗員は行き先など、業務内容が確定している
  • 予定変更があったとしても上司の指示を受けている
  • 日報でも業務報告を行っている
  • この状態を「労働時間の算定が困難」とは言えない
  • よって「みなし残業」も適用しない

おわりに.みなし残業は搾取される為ではありません

繰り返しになりますが、みなし労働時間制は「労働者の賃金を安く抑えて長く働かせられる」ためのものではありません。

あなたの会社にこの制度が取り入られている場合、「自分が大きな損を被っていないか、不遇な扱いを受けていないか」をいまいちど振り返り、それが許容できないレベルであれば声を上げるのもひとつの手段でしょう。

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メモ:超過分の残業代が払われているかどうかも大切ですが、みなし残業が取り入れられている職種は、一日の労働時間が長くなりがちというのがつらいですね。個人的には残業はゼロが望ましいと思っています。

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