顧問弁護士インタビュー 「日本の労働社会の本質的な問題は長時間労働が当たり前になっていることにある」

全国退職者支援会(以下、支援会)では、弁護士である橋本太地先生に、顧問としてサービスや情報発信に関するチェックをお願いしています。

橋本先生は立命館大学法科大学院を修了後、1回で司法試験に合格。司法修習(弁護士・裁判官・検察官のための研修制度)を修了した1年3ヶ月後には、大阪・堂島に橋本太地法律事務所を開設しました。

現在は大阪・内本町に拠点を移動。あなたのみかた法律事務所の代表として、「刑事」「労働」「離婚」の分野を中心に、精神疾患を抱える人も含めた法律面のサポートに力を尽くされています。

今回は橋本先生にお時間をいただき、先生のこれまでの経歴や担当してきた案件、労働問題に関わる中で感じていることや、なぜ支援会の顧問を引き受けていただけたのかについてお聞きしました。

あなたのみかた法律事務所 代表
橋本 太地

1986年生まれ。高校時代に法律に興味を持ち、龍谷大学法学部に進学。市民団体での活動を通じて冤罪問題に触れたことがきっかけで、刑事事件に関わる弁護士を目指すことに。2012年3月に法科大学院を修了、同年9月に司法試験に合格。1年の司法修習を終えたのち、2015年2月に橋本太地法律事務所を開設。翌年12月に拠点を大阪・内本町に移し、あなたのみかた法律事務所を開設。現在に至る。

司法試験に一発合格!弁護士を目指した動機は「冤罪問題」

六法全書

まずは橋本先生が弁護士を目指したきっかけを教えてください。

橋本太地先生(以下、橋本):最初のきっかけは、高校生の時に見ていたテレビの法律系のバラエティ番組です。初期の頃の『行列のできる法律相談所』や、みのもんたさんが司会をされていた『ザ・ジャッジ! 〜得する法律ファイル』などです。

高校生の頃から理論を勉強したり、人と議論をしたりするのが好きだったので、そうした法律系のバラエティ番組を見るうちに弁護士という仕事に興味を持ったのです。

ただ真剣に「弁護士になろう」と決めたのは、大学の3回生くらいの頃です。

当時の私は「京都当番弁護士を支える市民の会」(現在は発展的解散)という市民団体に所属して、市民の目線から京都の当番弁護士(※)の監視・サポートする活動に参加していました。

その団体の活動の中で、大阪で刑事弁護を熱心にされている下村忠利弁護士から、警察における取調べの問題について学ぶ機会があったのです。

私は活動の中で学ぶまでは知りませんでしたが、私が大学生だった2000年代後半は、刑事事件の取調べといえば「何時間も大声で恫喝し続ける」「人格を否定する言葉を浴びせ続ける」「暴力を振るう」が当たり前の時代でした。

そんな取調べが続けば、誰でも正常な判断ができなくなります。「何を言っても、話を聞いてもらえない」「この苦しみを終わらせたい」と思って、自白してしまうのも無理はありません。結果として、全国で冤罪事件が起きていました。

この事実を知った私は「放っておいてはいけない」と考え、弁護士になる決意をしたのです。

独立のきっかけは「ブラック事務所」

ブラック企業

先生は司法修習から1年3ヶ月で、個人の事務所を立ち上げていますが、それまでの経緯についてお聞かせください。

橋本:実は私は司法修習を終えてすぐに、ある法律事務所に所属しています。この事務所は月給制ではなく歩合制を採用していたのですが、入所して3ヶ月経っても仕事を与えられず、お金もなければやることもないという状況が続きました。

3ヶ月経ってようやく仕事が与えられたのですが、なんとそれがかなり厄介な案件で、弁護士1年目の私では到底対応できるものではなかったのです。しかし「初めてもらった仕事なのだから!」と考えた私は、なんとかして責任を持ってやり切ろうとしました。

その結果、うつ病に罹患。通院しながらも案件をやり抜こうとしたのですが、自分の健康を考え、勤めていた事務所の経営者に「この案件を続けることができない」と伝えました。

すると1枚のA4用紙を手渡され、3ヶ月後の解約、一般的の言葉で言うとクビを言われてしまったのです。

「弁護士なら、どこでもやっていけるだろう」と思われるかもしれませんが、当時弁護士は就職難の時代で、経験もない1年目の弁護士が簡単に再就職できるような状況ではありませんでした。

転職という選択肢が消えた以上、弁護士としての道は一つしかありません。自分で事務所を立ち上げることです。こうして2015年に橋本太地法律事務所を開設することになったのです。

得意分野は「刑事」「労働」「離婚」

裁判所

先生の得意分野について教えてください。

橋本:一番多くの案件を受任しているのは、弁護士を志すきっかけになった刑事弁護です。それ以外ですと労働問題と離婚問題をメインに扱っています。

労働問題では、どのような案件に関わってきましたか?

橋本:セクハラやパワハラの訴訟や、有給休暇取得の交渉などです。有給休暇取得の交渉をした案件の中には、会社から一方的な解雇を言い渡された労働者の方が「なんとか有給を消化して辞めたい」と相談してきたケースもあります。

調査を進めると会社側が解雇をする際の法律を守っていないことがわかりました。こちらがその点を指摘したところ、会社側が非を認め、有給休暇も退職金も全て満額を支払ってもらえる形で、問題を解決することができました。

他には、仕事が原因で精神疾患を患ってしまった方の案件を担当することもあります。

日本の労働社会の本質的な問題は「長時間労働」にあり

就業規則

法律の専門家として労働問題に関わる先生の目から見て、日本の労働社会が抱える本質的な問題はどこにあると思われますか?

橋本:長時間労働が当たり前になっていることです。

それは、会社側が当たり前のように働かせているのが問題、ということでしょうか?

橋本:それもありますが、労働者側の意識も問題があると思っています。法律家の目から見た労働契約というのは「労働者が自分の時間を切り売りしてお金を受け取る」という契約のかたちです。

「○時間働いたか」が大切なのであって、「仕事が終わっているかどうか」は関係ありません。もちろんイラストレーターやライターといった請負契約は別ですが、サラリーマンに関しては、定められた就業時間分働いたのなら問答無用で帰宅していいのです。

しかし日本の労働者は色々な理由をつけて会社に残り、長時間労働をしようとします。「仕事が終わっているかどうか」を重視しているからです。

言い換えれば「自分は自分の時間を切り売りして給料をもらっているのだ」という意識がないことの証とも言えるでしょう。もしその意識があるなら、帰りたい人は家に帰って自分の時間を過ごしているはずですからね。

自分の心身に支障が出ているにもかかわらず、この「仕事が終わっているかどうか」に執着し続ければ、生活習慣病などの体の病気だけでなく、うつ病などの心の病気にもかかる可能性が高くなります。

もし「仕事が終わっていないのに、家に帰るわけにはいかない」と自分を責めてしまっている人がいるのなら、法的な観点から労働契約の本来のあり方を考えた場合「あなたには定時に帰る権利があるんだよ」と伝えてあげたいですね。

顧問を引き受けた理由は「労働者のトータルサポートを考えていたから」

困っている人を救いたい

今回、支援会の顧問を引き受けてくださった理由をお聞かせください。

橋本:退職を考えている人に対して、総合的なサポートを提供していると感じたからです。私が支援会のサービスで主に関わっているのは退職代行サービスです。

世の中にある退職代行サービスは、シンプルに退職の手続きを代行するというものがほとんどです。一方で、支援会のサービスは利用者の退職後の生活も見据えて、退職前の手続きからトータルで情報を提供したり、アドバイスをしたりしています。

この点で、支援会はより多くの労働者に役立つサービスを提供できる団体だと考え、顧問の依頼を受けることにしました。

しかし支援会は、しばしば「詐欺団体だ」と批判を受けることがあります。

橋本:私もネットで見ましたが、あまり気にする必要はないと考えています。例えば「詐欺だ」という書き込みには、具体的に支援会のどの活動が、どの法律のどの記述に該当するのかが書かれていません。いわば、批判が批判の体(てい)をなしていないのです。

とはいえ、ちゃんと批判できないのも仕方がありません。なぜならそもそも支援会の活動に違法性がないからです。利用者の方々や、利用を検討している方々は、安心してサービスを有効活用していただければと思います。

本日はお忙しい中お時間をいただき、誠にありがとうございました。

あなたのみかた法律事務所

事務所名あなたのみかた法律事務所
代表者名橋本 太地(はしもと たいち)
住所〒540-0026 大阪市中央区内本町2-4-16 オフィスポート内本町603
メールthashimto_lawyer@anata-no-mikata.com
営業時間9:00~21:00
定休日土日祝(事前予約で土日祝日も対応)
  • 月間レポート公開中!最近の相談傾向をお客様の声と合わせてご報告します。