全国退職者支援会(以下、支援会)では、弁護士である橋本太地先生とともに、社労士である香川昌彦先生にもサービスや情報発信の監修をお願いしています。

香川先生はもともと一般企業に勤めていましたが、環境の変化や仕事量の多さに躁うつ病を発症。一度は社会からドロップアウトした経験を持っています。

しかし2007年には社労士事務所を設立。以後10年以上、自身の躁うつ病の症状と向き合いつつ、個人の障害年金の申請サポートを行うかたわらで、自分と同じメンタル不調に苦しむ人へのサポートも行ってきました。

今回は香川先生にお時間をいただき、先生がどのようにして躁うつ病と向き合ってきたのかをお聞きするとともに、なぜ支援会の監修を引き受けていただけたのかについてもお話いただきました。

こころ社労士事務所 代表
香川昌彦

製薬会社の営業職時代に躁うつ病を発症し、休職と復職を繰り返す。在職中に取得した社労士資格の知識から「会社を辞めても何とか生活していける」ということ気づき、退職。2年の療養を経て社労士事務所を設立する。以後10年以上躁うつ病と向き合いながら、「社長と社員の『こころ』に寄り添い健康経営をサポート!」をスローガンに社労士として活躍。現在に至る。

http://sr-kokoro.com/

急激な環境の変化から「うつ病」の診断を受け、休職へ

 

まずは香川先生が社労士事務所を設立されるまでの経歴をお聞かせください。

香川昌彦先生(以下、香川):もともと私は学生時代、南米に行って金融系の仕事がしたいと考えていました。そのため就職活動では某メガバンクに内定をいただいていたんです。

ところがタイミングが悪いことに、私が社会人になる直前にバブルが崩壊し、内定が取り消されてしまった。行くところに困った私は「同じ金融会社なら、お金のことを学べるだろう」と考えて、当時景気の良かった消費者金融に就職しました。

しかししばらくして、その会社は辞めてしまいました。というのも、バブル崩壊直後の消費者金融だったので確かに給料は良かったのですが、仕事をやっているうちに自分の性分に合っていないような気がしてきたからです。

「もっと自分に合った仕事がしたい」と考えた私は、国内系の製薬会社に転職し、MR (営業)として働くことにしました。

当初は、薬を通して病気に苦しむ人たちを救える仕事にやりがいを感じていたのですが、勤めていた会社が外資系企業に買収された頃から雲行きが怪しくなります。

会社のカルチャーが変わり、求められることが変わり、取り扱う商品もガラリと変わり……そうした急激な変化についていけなくなった私は、躁うつ病を発症し、休職することになったのです。

休職・復職を繰り返しながら、偶然手にした「社労士」の資格

 

そのまま退職されたのですか?

香川:いえ、そのときは復職しました。自分自身の感覚では以前のように働くことはできていませんでしたが、幸か不幸か会社からの評価は高く、それまで以上に仕事を任せられるようになっていきました。

さらには営業本部の課長代理のようなポジションを与えられてしまい、ストレスは右肩上がりに。結果として、休職と復職を繰り返しながらギリギリの状態で仕事を続けていくことになります。

心療内科や、精神科には通っていたのですか?

香川:もちろんです。精神疾患については、専門家にしか判断できませんから。ただ、実は初めの診断は「うつ病」で、「躁うつ病」ではありませんでした。

うつ病と躁うつ病では治療方針も、必要な薬も違います。こうした診断ミスもあって、病気をこじらせてしまった部分はあると思います。

休職と復職を繰り返しながらも、なぜ退職されなかったのでしょうか?

香川:当時の私は「精神疾患で会社を辞めたりなんかしたら、人生が終わってしまう」と本気で思っていたんです。

収入がなくなることも怖かったですし、当時は「30歳転職限界説」がまことしやかに語られていたので、二度と社会に戻れないんじゃないかという不安もありました。

しかし状況は悪化するばかりで、会社では営業関係の仕事以外にも総務関係の仕事もやってくれと言われてしまいます。

ところが、これが大きなきっかけになります。総務の仕事を学ぶために、会社から勧められた社会保険労務士の勉強を始めたらハマってしまい、4ヶ月ほどの勉強で資格を取得することができたのです。

加えて資格の勉強を通じて、自分が傷病手当金や、傷病手当金受給後の失業保険の給付対象になっていることも知りました。会社を辞めても、少なくとも1年以上はお金に困らないことがわかったわけです。

「会社を辞めても人生が終わらない」ということを知ったんですね。

香川:そうです。通っていた病院のお医者さんにこのことを相談したところ、「正直なところ、会社を辞めてでも休んで欲しい。香川さん、今のまま働き続けていたら治らないよ」と背中を押してもらいました。

その後は社労士の知識を使って、正しく給付金がもらえるように手続きを進め、製薬会社を退職しました。

静養した結果、病気ともしっかり向き合えるようになり、ようやく躁うつ病であることが判明。治療も躁うつ病に合ったものに変わったので、少しずつですが症状が改善していきました。

静養期間はどれくらいでしたか?

香川:社労士事務所を立ち上げるまでには2年ほどかかりました。ただ事務所を立ち上げてからも体調の波はずっとありました。

「安定したな」という実感が出てきたのは、正直この1年ほどです。同じくらいの時期に、かかりつけ医からも「やっとここまで来れたね」と言ってもらえました。

精神疾患を経験した自分だからこそ、できることがある

社労士は企業とお仕事をするイメージですが、先生は個人のお客様への案内もされていますね。

こころ社労士事務所 ホームページ

香川:端的に言えば、精神疾患を抱えている人たちに向けて「社労士の立場から相談に乗りますよ」という内容です。

社労士の独占業務とは関係のないサービスなので、料金も交通費程度しか受け取っていません。社労士としてというよりは「香川昌彦」として伝えたいことを書きました。

精神疾患になってしまって「このまま今の会社を辞めたら人生終わりだ」と思っている人は多いと思います。先ほど申し上げたように私自身もそうでした。

でも精神疾患になったからといって、今の会社を辞めたからといって、人生は終わりません。私は精神疾患になって会社を辞めましたが、傷病手当金や雇用保険の給付を受けてじっくり静養し、今は社労士として活動できています。

しばらく静養して普通に働ける程度まで良くならなくても、国の法律に基づいて作られた「就業移行支援」という社会復帰・就職支援施設もあります。

障害者手帳を取得して、一旦は障害者として就職をするというのも手です。最終的にはお医者さんと相談して、障害年金を受給するという選択肢もあります。

日本には、真面目に働いた結果ドロップアウトしてしまった人を支援する受け皿が、たくさんあるのです。ただ、普通に働いている人はそうした受け皿についての知識がありません。でも社労士の私なら、専門家の視点からどのような選択肢があるかを提案できます。

個人のお客様向けの相談サービスは、「社労士であり、かつ精神疾患を経験した自分だからこそできることがある」と考えて、事務所設立当初から続けています。

支援会への協力を通じて、孤独に苦しむ人たちを救いたい

 

支援会も精神疾患に苦しむ人たちをサポートできるよう、様々な制度の紹介や情報の発信を行っています。

香川:私がやっているのがオフラインでのサポートなら、支援会がやっているのはオンラインでのサポートです。やり方は違いますが、向いている方向は同じだと思います。

会社の中にいると、上司や先輩、同僚が色々なことを教えてくれます。例えば子供ができたら「出産手当金というのがあるよ」といった具合に、周りが教えてくれるわけです。

しかし今の日本は会社に出た途端、誰も何も教えてくれなくなります。制度は一般の方が理解するには複雑すぎますし、国は税金などを徴収するとなると真面目にやりますが、給付制度になるとほとんど情報を発信しません。

知らない人が損をしないためには、誰かが正しい情報を発信して、サポートしてあげなければなりません。もちろん国がサポートしてくれるようになるのが一番ですが、今はまだ支援会のようなサービスがあった方が、救われる人は増えると思います。

ただし間違った情報や誤解を招く情報を発信してはいけません。だから私のような専門家が監修に入り、会員向けの記事などの細かい内容修正を行っているのです。

少し内情を明かしますと、私にはかなり大きな監修権が与えられています。

ですから、仮に支援会が「この内容は利用者を増やすためにどうしても残したい」と言ったとしても、内容に間違いがあれば問答無用で修正することができます(笑)

にもかかわらず、支援会はしばしば社労士の先生方から「詐欺集団だ」と言われることがあります……。

香川:正直、私も最初ご連絡をいただいたときは、「詐欺をやらせる気か?」と身構えました(笑) でもよくよく話を聞いてみたら、極めてまっとうなことをまっとうにやろうとしている方々だということがわかりました。

支援会を詐欺集団だと言う社労士たちも、おそらく悪気は一切ありません。ただ専門ではないというだけなのです。

というのも、基本的に社労士は会社側に立って物事を考える仕事です。必要になるのは「会社の中にいる人」についての知識です。

逆に言えば「会社から出て行ってしまった人」についての知識、例えば傷病手当金や失業保険、再就職手当などを正しく受給するための条件や方法については、社労士試験以降ほとんど使いません。

結果これらの制度が、一般の、しかも精神疾患を抱えた人たちが利用するにはあまりにも複雑だということを理解しにくくなっているのです。

繰り返しになりますが、支援会は詐欺集団などではありません。傷病手当金や失業保険、再就職手当などを正しく受給するための情報を、社労士の監修のもと、法律にのっとって提供している、ちゃんとした団体です。

最後に、この記事の読者に向けてメッセージをお願いします。

香川:精神疾患にかかった人の中には、大きな孤独を感じている人も多いはずです。

知人・友人にも相談できない。意を決して相談しても「甘えているからだ」「気合が足りない」などと理解してもらえない。自分のことなんて、誰もわかってくれないんだと絶望的な気持ちになっている人もいるかもしれません。

でも支援会のサービスを利用すれば、担当者が精神的なより所になってくれますし、傷病手当金や失業保険といった制度の利用方法もわかりやすく説明してくれます。

精神疾患と向き合っていくためには、心の余裕が必要です。心の余裕を得るにはお金の余裕もある程度必要です。支援会はそのための窓口になってくれます。どうか安心して、一度相談してみてください。

本日はお忙しいなか、ありがとうございました。